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@jumpei_ikegami

8つのSIer退職エントリから学ぶ、日本のSIerの実態

この記事は、しがないラジオAdventCalender8日目の記事です。

私は、「SIerのSEからWeb系エンジニアに転職したんだが楽しくて仕方がないラジオ」という、全国のSIerを敵に回すようなタイトルのポッドキャストをやっています。

タイトルを決めた理由の1つとして、よく「SIer退職エントリ」がはてなのホットエントリーに入っているのを知っていたことがあります。

SIやばいよ、SIやめたよ、みたいな話は、界隈で興味や関心を得やすいのだなあという感覚もあってのタイトルです。

そこで改めて、富士通の退職者の1人として、「SIer退職エントリ」をまとめてみます。

ざっと探して見つかったものに限るので、偏りがあるかもしれません。 また、SIerの営業職/コーポレート部門などについては、本エントリのスコープから外しています。

ネガティブ寄り

まずは、SIerに対してネガティブな感情が滲みでているエントリたちです。

2016-04-13: 富士通を退職した話 (1256ブクマ)

はてブ界隈の話題を席巻したエントリ.

入社する前は大学の情報系学部に通い、大学院まで進学して専門分野の研究にそれなりに熱意をもって取り組んでいた。 (中略) 自分の希望についてはしっかりと主張したつもりだったけれど、 入社して1週間後に告げられた自分の配属先は、山奥の工場でメインフレームを主とするシステムの開発・保守を行う関連会社への出向だった。

多くの大企業では、採用部門と事業部が切り離されていて、入社時の希望と全く違う配属になることがあります。 この現象を、私は「大企業ガチャ」と呼んでいます。

20代そこそこの新卒社員が化石みたいなプラットフォームの世話を押し付けられるなんて想像だにしていなかった (中略) せめて担当業務はオープンプラットフォームにしてほしいとか、COBOLは嫌だとか、ついでに可能であれば山奥の工場に押し込まれるのも勘弁してほしいとか、できる限り主張をしつつ、しばらくの間実際に働いてみてから身の振り方を決めることにした。

直感的には、ちゃんと情報科学を学んできた20代にCOBOLを書かせるのはもったいないと思います。 その辺りの感覚が日本の大手SIerの中にどのくらいあるのか、非常に気になります。

2011-12-04: 2年半務めたSIerを退職しプログラマとして再スタートを切ることにしました (82ブクマ)

プログラマに憧れて就活をしたけれど、SI業界ではPGは地位が低いという話を聞いてSEになった人の退職エントリ。

どうにもプログラマというのは飯が食えないらしい、 日本においては価値が低い職業として位置づけられているらしい、ということが見えてきました。

今にして思えば、それは「SI業界における下請け専門のPG」の話でしたが、 当時は「それがPG」だという風に見えてしまい(後略)

一般的にはモノを作れるプログラマーの方が価値が高そうですが、SIerではPGが単純労働とみなされ、 SE > PGという明確な身分差を付ける文化がある印象です。

一番大きく感じた違和感は 上流SIerのSEってITスキルなんて皆無でもやっていける、という点です。

特に大手SIerにいるような上流のSEは、技術職ではなく「技術系総合職」です。

技術が好きでコードを書きたい人は、上流SEになるとミスマッチになりやすいです。

2016-04-24: 富士通を退職して思うこと (1104ブクマ)

3年で辞められた、公共系SEの方。 富士通の悪いと感じた点が章立てで記述されていて、強い思いを感じます。

1.成果主義を謳いながら実態は年功序列主義

富士通には、人材キャリアフレームワークという社員評価制度があり、現場には、入社何年目はこのレベルの仕事、といった暗黙の了解がある。 本人の能力や意欲とは全く無関係に、入社後の経過年数で、仕事の裁量の幅が大きく制限される。

富士通成果主義について深く知りたい方は、こちらの本がオススメです。文体に癖がありますが、生々しくて面白いです。

Amazon | 内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス) | 城 繁幸 | 企業動向

2.社内既得権益集団が絶対に損をしないルール

富士通という会社には多数の既得権益集団がいる。そして、社内のルールは彼らが決して不利にならないように作られている。 なぜなら、ルールを作る権限は、先頭を走る集団、1980年代に大成功を収めた既得権益層がガッチリ握っているからだ。

これは日本の社会保障制度がヤバいのと非常に似た理由で、大手SIerには若い人が一線を退いた世代を支えなければならない構造があります。 日本から脱出するのは大変ですが、SIerから若者が脱出するのは比較的簡単です。

こちらも深く知りたい方は、こちらの本がオススメとのこと。

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書) | 城 繁幸 |本 | 通販 | Amazon

4.発展途上国レベルの業務標準化の原因

ここにおいて、ITシステムが業務に合わせるのではなく、ITシステムに合わせて業務の方を変えていかなくてはいけないのだ。 (中略)

富士通は、既存顧客の業務標準化およびデファクト・スタンダードとなるITシステムの開発の陣頭指揮をとる役割を果たすべきだが、その望みは期待できない。 なぜなら関係が深い企業において、業務が効率化すると大量の社内失業者を出すことになるからだ。

これは日本全体の問題で、自治体や事業会社が業務をシステムに合わせて変えられれば全ての組織が同じパッケージを使うだけで済むので効率的ですが、現状はSIerがシステムを各組織の業務に合わせてカスタマイズしているので、生産性も利益率も全然上がらないという話です。

カスタマイズで関係性や利益を得るのは短期的にはいいですが、利益率が下がる割に保守コストがどんどん膨れあがるので、長期的には社会にも会社にも望ましくないです。

最近、新興企業を中心に業務でもSaaSの利用が進んでいるのは、良い傾向だと思います。

2013-09-01: SIerを退職しました - hotchemi.ja.blog (707ブクマ)

1年半で退職して、より技術寄りのキャリアにチェンジした方。

強いて言えば、下記の様な問題を考え続けた結果、転職という選択肢が自分にとって最善であると感じたという事です。

・業界の方向性に疑問を感じた。開発をアウトソーシングしマージンを抜くといったビジネススタイルでは開発者が幸せになれないと感じた

・エンジニアとして生きていく上で技術から取り残される焦りを感じた

わかる。

実際に現場に入ってみて「楽しくなさそうにプログラミングをしている人が多いな」と感じたのも事実です

多くのSIerの中で、プログラミングは仕様書をプログラムに落とし込む単純労働とみなされており、「プログラミング楽しい!」という人は少ない印象です。

人月(必ずしも悪だとは思いませんが)、一括納品のビジネスモデル、多重請負構造、ディフェンシブな開発体制(この辺りの思想は倉貫さんに強く影響を受けています)…パッと思いつくだけでもSIerの受託開発には多くの問題や矛盾が存在しています。 (中略)

未熟な頭で必死に考えた結果、上記の問題を解決する為には、2つの道があるのではないかと考えます。 ・永和システムマネジメントやソニックガーデンなど、新しい受託開発を提案できる環境に身を置く。リスクを丸投げしてくるような発注をそもそも受けない。 ・ユーザー企業(敢えて幅広い言い方をしています)に身を置き、既存のSIではない事例を作っていく

これも同意で、多くの場合はユーザー企業とSIerのパワーバランスは顧客の方が上なので、無理な発注を受けざるを得ない状況があります。

この状況が変えるためには、やはり

  • 他の会社には持っていない技術やノウハウをもった「強い受託会社」が増えてユーザー企業側の目を覚まさせる
  • SIerのような受託会社ではなくユーザー企業側に多くの開発者が移る

のどちらかだと思います。

ちなみに、米国では日本と違い、ユーザー企業側に多くの開発者がいるようです。 paiza.hatenablog.com

また、本エントリでも言及されていますが、「納品のない受託開発」に取り組む株式会社ソニックガーデンさんは、まさに「強い受託会社」である印象で、受託IT業界に燦然と輝く光です。

www.sonicgarden.jp

2016-02-29: SI企業を退職しました - 無理なご乗車はおやめ下さい。

SIerに2年11ヶ月勤めて辞めた人のエントリ。 自分で仕事を取りに行ったと書いてあるので、たぶん会社の規模は小さめ。

私が文系出身でありながらこの世界に来たのは、サラリーマンとしてのビジネス力を磨きたかったのではなく、技術をもっと追い求めたかったから。「システムなんて中身がどうであれ、とにかく動けばいい」ではなかったはず。エンドユーザのシステムを理解・把握し、新規事業の提案をして、開発を外注に投げて私はその管理だけをするということがしたかったわけではないはず。

ウォーターフォールの受託開発だと、要件を実現することだけが優先されやすく、作っているシステムをもっと使いやすくするための努力をしにくいです。

この会社にいて得られる技術力は?VBCOBOLや古い仕様のままのCといった枯れた技術は必要悪、エンタープライズ向けシステムには不可欠な技術だけど、でもそれを私は習得したかった?違う。

VBCOBOLを書く人はまだ日本に必要だけど、それを自分が書くべきか、という問題。安い給料でCOBOLを書く若いエンジニアがいる限り、COBOLは死なない。

2015-10-04: 中小SIerを退職しました記事。 - るがぶろぐ (111ブクマ)

2年半勤めたSIerを辞めて、一旦無職になった方。 まず辞めてから考える勇気!

一番大事なのはやっぱり給与。諸々不満があったとしても、十分な報酬貰えてるなら文句言わず働くよねっていう。 (中略) 特に私の場合は、入社以来、何回も表彰されてた (個人でも、プロジェクト単位でも) っていう実績があって、「若手の期待の星」みたいなことも経営層から (対面では) 言われてたので、なのに昇給が同期と変わらず、無いも同然っていうのは…っていう感じでした。評価してるっていうなら形で示してください。これ大事。

これはSIerだけの問題ではないと思いますが、利益率の低さや年功序列が原因であることがある気がします。

ポジティブ寄り

次に、新しいチャレンジをしたいという理由で転職をしたケースと、転職後に辞めたことを後悔しているケースです。

どちらも、SEではなく研究開発寄り。

2014-01-20: 富士通を退職してGunosyにjoinしました - Ryoの開発日記 (298ブクマ)

スパコン向けのミドルウェア開発などをされていた方。 受託案件ではなく、研究や製品開発周りであれば、大手SI系の企業でも活き活き働いている人が多いイメージです。

前職に大きな不満があったわけではありません。 学生時代から興味のあった*6 データマイニングの技術を活用するGunosyのキュレーション事業に関わってみたい、スタートアップのベンチャーで自身の能力を活かしてみたい、身近で使われるようなB2Cの事業に関わってみたいという思いが日増しに強くなり、決断した次第です。

ポジティブな転職理由。

2013-12-21: 退職します. 拝承 - テストステ論 (987ブクマ)

こちらも、非常に話題になった日立退職エントリ。エントリ自体はネガティブ。

その攻撃的な内容に公開当時も話題になったが、何よりもその後筆者がTwitterで「転職は完全に失敗だった」「土下座で謝るので日立に戻りたい」と手のひらを返したところまで含めて多くの人の興味を引いた。

なお、転職後のTweetについては、以下の記事に詳しいです。本人のTwitterアカウントも調べましたが、凍結されている模様。

netgeek.biz

ざっくりまとめ

SIerに対するよくある批判や不満

  • 開発言語や環境が古い(メインフレームCOBOLなど)
  • 実際に開発をするプログラマの方が、SEより地位が低い
  • SEは「システムエンジニア」なのに開発させてもらえない
  • ユーザー企業の業務をITシステムに合わせて変えるケースが少なく、カスタマイズが絶えない
  • プログラミングを楽しんでいる人が少ない
  • システムの品質や使いやすさを追求しにくい
  • 給料が安い(特に若手)

わかったこと

  • プログラミングが好きで仕事にしたい人は、SIerのSEになってはいけない
  • SIer界隈では、業界の構造的な問題として、生産性の低い開発を強いられるケースが多い
  • 大手SIerの研究開発部門であれば、技術的に凄い人に囲まれてスキルアップできる環境はあるかも
  • 富士通は他の大手SIerに比べて退職エントリーが圧倒的に多い

以上です。

SIerに限らず、日系企業や大企業にありがちな問題も含まれていますが、おおよそSIerの負の側面については、網羅できた気がします。

ただし、退職エントリを書いた人の意見しか記述されていないので、だいぶバイアスがかかった内容だと思います。

実際、私の富士通時代の同期の中では、SEとして活き活きと働いている友人がたくさんいます。

そのため、辞めた側の一つの意見として、誰かの参考になれば幸いです。